第4回
戸田 達史先生
医師 / 神戸大学医学部教授
2016年の春、神戸大の戸田先生チームが福山型筋ジストロフィーの発症原因において、大きな発見をなされました。
今回はその発表内容に関して、わかりやすくご説明いただきました。
- この度の発見に関してご説明お願いします。
- 福山型筋ジストロフィーが発症する原因になっているタンパク質はジストログリカンです。ジストログリカンの周りにあるお砂糖(リビトールリン酸)が切れてしまうために福山型筋ジストロフィーが起こります。これまで福山型筋ジストロフィーではフクチンという遺伝子が欠損していることは分かっていましたが、そのフクチンの働きは今まで分かっていませんでした。ノーベル賞を受賞した田中耕一さんの質量分析法という技術によって糖ペプチドの分子量を量り、リビトールリン酸という珍しい糖が福山型の患者さんでは欠損している事が分かりました。リビトールリン酸自体、植物やバクテリアにはあるのは分かっていましたが、人間にも存在すると分かった事自体、今回は驚きの事実でした。福山型筋ジストロフィーの患者さんは沢山ある他の糖鎖はほぼ正常なのですが、フクチンという遺伝子が運ぶこのリビトールリン酸の欠損により、特定の糖の鎖(ジストログリカン糖鎖)が切れてしまっています。また、リビトールリン酸を患者のモデル細胞に投与すると、糖鎖の異常を解消できる事も分かりました。
(フクチンはリビトールリン酸をくっつけるので、つくるわけではありません。)
- 今回、福山型筋ジス患者の糖鎖不足が判明した件は、どのような経緯で発見に至ったのでしょうか。
- 昔から福山型筋ジス患者の糖鎖がおかしいという事は分かっていましたが、今回の発見により具体的に判明しました。以前から筋ジス研究の大御所、杉田秀夫先生より、「フクチン自体の働きを解明しなさい」という宿題を出されており、会う度に「どうなったんだ?」と聞かれていました(笑)。その先生からのアプローチまたはプレッシャー(笑)が研究に至るきっかけでもあります。
- 一般的に糖鎖とは体のなかでどのような働きをするのでしょうか。
- 糖鎖とはタンパク質や脂質に結合して、細胞の表面に存在しています。その中でもジストログリカンというタンパク質が骨格になって筋肉を補強しているのですが、糖鎖が切れることによりジストログリカンと細胞の外のタンパク質の連結が切れ、筋肉組織がどんどん破壊されていく事で、福山型筋ジストロフィーの症状が起こっています。
- リビトールリン酸は市販のものにも含まれているのですか。
- リビトールリン酸は研究用に合成が必要になってくるので、簡単に手に入るものではありません。キシリトールガムを食べたら効くという事は、糖の構造も違う為ありえません。
- この発見は福山型以外の筋ジストロフィーにも共通項はあるのでしょうか。
- 日本に存在する福山型筋ジストロフィー、欧米のFKRPによる肢帯型2I型や、ISPDによる先天型の筋ジストロフィーの3型が対象になります。
- 今後の治療に繋がる計画があれば教えてください。
- まだ福山型筋ジストロフィーでは実験がなされていませんが、希望的観測としてはリビトールリン酸の投与により機能の回復は望まれます。
福山型筋ジストロフィーの患者さんのフクチン量は10-20%と仮定されますが(0%だと生存自体が不可能になります)、仮に50%まであげるだけでも
正常な方と同じ状態になります。
今回の実験は細胞にかけただけなので、今後どのような取り込み方が効果的なのかを探っていくことになります。
将来的には、先に研究の進んでいるアンチセンス核酸とミックスセラピーとして併用投与していければ良い効果が得られるのでは、と期待しています。
インタビューに際し、戸田先生は終始分かりやすく説明して頂きました。
今回の発見は、糖鎖の一部であるリビトールリン酸が欠けることで糖鎖が途中で切れてしまうというものでした。
このリビトールリン酸をうつすのが、福山型筋ジストロフィーで異常となっているフクチンという遺伝子であり、ふくやまっこの体の中で何が起こっているのか、その病気の原因が解明されました。
今回の発見やその手法が将来、福山型のみならず他の筋ジストロフィーの原因を解き明かし、治療に役立つものになるのではと期待してしまいますね。
- 戸田 達史とだ たつし
- 医師 / 神戸大学医学部教授
1985年東京大学医学部医学科卒、内科研修後、1987年東京大学医学部神経内科・医員、1994年東京大学医学系研究科人類遺伝学・助手、1996年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター・助教授を経て2000年より大阪大学大学院医学系研究科遺伝医学講座(臨床遺伝学)教授。2009年より神戸大学大学院医学研究科 神経内科/分子脳科学 教授。2002年-2008年CREST研究代表者。専門はゲノム医科学、遺伝医学、神経内科学。主な著書に「ゲノム医学の新しい展開」など。日本人類遺伝学会・学会賞、長寿科学振興財団・財団会長賞、日本神経学会・学会賞、朝日賞、文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞。
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