第7回

遠藤 玉夫先生
研究者 / 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 副所長

昨年の春、神戸大学の戸田先生チームが福山型筋ジストロフィーの原因に「糖鎖」の異常が関係している事を突き止めました。秋には共同研究者の遠藤玉夫先生が、発症にかかわる原因遺伝子の機能と構造も解明されました。
そもそも、「糖鎖」とは何か、患者達の身体にどのような影響を与えているのか、遠藤先生にわかりやすく解説いただきました。

ふくやまっこにとって、糖鎖ってなんだろう?
福山先生が福山型筋ジストロフィーという病気を見つけて約50年、戸田先生達が原因遺伝子を見つけて約20年、ようやく病気が糖鎖の異常に起因しているという事が分かりました。
私達の体は60兆というたくさんの細胞によって形作られていますが、それぞれの細胞は糖鎖によって覆われています。したがって外から来たものは細胞の一番外側にある糖鎖をまず認識するため、糖鎖はいわば細胞の顔のようなものです。糖鎖はブドウ糖の様な糖が鎖状につながったものであり、そのつながりの違いに意味があります。たとえばABO式血液型は糖のつながりの違いで決まります。そしてA型、B型といった血液型の違いで、あるウィルスにかかりやすい、胃腸が弱いなど様々な体質の傾向も特徴づけられています。このように私たちの体の性質を決めていっているのが糖鎖ではないか、と考えられています。
糖鎖は通常、タンパク質や脂質にくっついて働いています。福山型筋ジストロフィーでは、特定の糖鎖がうまく伸びないため筋肉細胞が壊れてしまう、という状況になります。
糖鎖は酵素の働きによって伸びていくのですが、福山型筋ジストロフィーは病気の原因となる遺伝子異常により、特定の糖鎖を伸ばす酵素をうまく作ることができません。そして酵素の働き具合により、病気の重篤度合いも変わります。リビトールリン酸の欠如で糖鎖がうまく伸びなくなってしまったのが福山型筋ジストロフィーです。しかし、リビトールリン酸については、どうやって作られるのか、どのような働きがあるのか、どういった物質なのか、など詳しいことは良く分かっていません。さらに糖鎖のどこが伸びなくなるかによって、福山型筋ジストロフィーに似た病気がいくつかあることが分かって来ました。
治療にはどう繋がる可能性があるのか?
完成された糖鎖を何らかの方法で、糖鎖が原因に絡む筋ジストロフィーの患者さんに投与できれば、筋肉などの正常機能が戻ってくるのではないかという考えに基づき、研究が進められようとしています。ほんの少しでも糖鎖を伸ばす事ができれば、症状の改善に繋がるのでは、と期待されています

遠藤 玉夫えんどう たまお
研究者 / 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 副所長

1977年東京大学薬学部卒業
1982年同大学院博士課程修了・薬学博士
同年米国Baylor医科大学博士研究員
1984年東京大学医科学研究所助手
1994年財団法人東京都老人総合研究所・糖鎖生物学部門室長
2005年改組により、財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団・東京都老人総合研究所・老化ゲノム機能研究チーム(研究部長)
2009年地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所・老化機構研究チーム(研究部長)
2012年同副所長
平成14年度東京都知事賞、平成15年度日本薬学会学術振興賞、2007年度(平成19年度)朝日賞受賞
現在、老化、認知症、筋における糖鎖の生物学的意義を明らかにしようとしている。

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