第5回

高見 葉津先生
言語聴覚士 / 指導教室「育ちの部屋」運営

疾患の特徴として、発語やコミュニケーションにおける問題、食事をする際の咀嚼や嚥下でも度々悩まされる事が多いふくやまっこ達。
今回長きにわたり言語聴覚士としての経験で、様々な子供達と関わってきた高見葉津先生に、コミュニケーションに置けるポイントや、食事の際ケアするべき点などをお聞きしました。

ふくやまっこは個人個人での差はありますが、理解をしていても発語に関しては遅いと言われています。
子どもとのコミュニケーションをとる上で、親や周囲の人が大事にしていくべき点がありましたらアドバイスをお願いします。
コミュニケーションの発達には子どもと大人との直接的な関係(二項関係)、それから発達して子どもと他者と物との関係(三項関係)が必要です。人との愛着関係やおもちゃや絵本、食物などの物を介して一緒に同じものに注意を向けたりやり取りしたりしながら、子どもはコミュニケーションの力が発達していきます。また、知的障害のある子どもは、ことばの理解と表出を比べるとことばの理解の発達が1年から2年先行する傾向があります。例えば理解の発達が2~3歳レベルになって表出の発達が1歳代にあるといった様子です。ですから先にことばの理解を促進する必要があります。ことばの表出の発達を伸ばすためには、ことばの理解の発達を促進することが不可欠です。
当たり前のことですが、まず子どもの顔をみながら沢山話しかけましょう。ふくやまっこは運動が苦手ですから自分からおもちゃや絵本などを取りに行くことができなかったり、おもちゃの操作がうまくできないため遊びが限られてしまうことが多々あります。子どもが見える範囲におもちゃや絵本を置いていつでも子どもが要求しやすいようにしておくことや、子どもの姿勢を調整して上手に介助しながらおもちゃなど物をいろいろと操作する経験により、概念の発達を促します。表出面では子どもの意思を引き出すようにします。いつも大人の判断で決めてしまうのではなく、子どもに選ばせるような働きかけをします。初めは2つの事や物から選ばせますが、だんだんと選択肢を増やしていきます。そのようなやり取りでコミュニケーションが楽しいと感じられるような環境をつくります。
 子どもはことばを話す前から表情、見ること、発声やちょっとした手の動きで気持ちや意思を示すことがよくみられます。子どもをよく観察してその気持ちや意思をくみ取ることが上手になってください。そして気持ちや意思をくみ取ったらそれをことばで代弁してあげます(例えば「~で遊びたいのね」「~がいいのね」など)。このような繰り返しにより、対応してくれる人に心を開き、楽しみが増えコミュニケーション意欲が強まってきます。それがもととなり発声やことばつながるようになります。大人は日々の生活に追われつい子どもはことばでなくても表出しているにもかかわらず、大人が決めて大人がやってしまうことが多くなります。一日のうちの少しの時間でも子どもの気持ちや意思を受け止めることを意識されるとよいと思います。
発語に関する訓練はどのようなものがあるのでしょうか?
人は肺から息を出すときに喉頭にある声帯を震わせて声を作り、その声を口から出す前に口の開け方や舌や唇を使って日本語の発音を作り出しことばとして発します。ですから息の出しかたや声の出し方、そして顎や舌や唇がタイミングよく動くような練習をします。息を出す練習には吹く練習があります。初めはそっと息をだしたり、ティッシュや綿玉など軽いものを吹いたりしますが、だんだんとリコーダーやラッパ、そしてストローでコップの水を吹くなどの練習をします。顎、舌、唇は食べるときも使う器官です。ですから食べ方の練習をすることも大切です。水分を吸ったり、食物をかみとったり唇で取り込んだり、咀しゃくしたり、舌で喉へ送り込んだり、しっかり嚥下したりすることが練習の基礎です。子どもが理解できるようなら口の開き方や閉じ方、舌や唇の動かし方を練習します。音を出すときの口の動かし方がわかるよう子どもへ話しかけるときは口元をよく見せることが大切です。自然に口の動きを真似するよう働きかけます。また、動物の鳴き声、動作時や物を動かしたときに出でる擬音語での音真似遊びなども良いと思います。楽しく子どもの好きな歌を一緒に歌うこともよいでしょう。子どもが声を出すだけでもよいのです。声を出すことが楽しいと感じ、メロディーを真似ることでことばのイントネーションを真似ることにつながります。そして大事なことは、たくさん声やことば(喃語やもじゃもじゃことば、不明瞭なことばなどでもよい)を出す機会を増やすことです。それには子どもが出す声やことばをそのまま真似て遊ぶこともよいでしょう。ただ楽しすぎて子どもが疲れないように留意します。声を出したりことばをいうことは運動によってなされることです。そして周囲の人々はことばがはっきりしなくても聞きとることです。子どもが言いたいことを推測して大人が正しく言ってお手を示します。これらの対応は子どもがもっと声やことばを出してみたい気持ちにつながります。また、少しでもことばらしいことをいったり、上手にいえたら褒めてあげることが大切です。
ふくやまっこは顔面筋が弱い為、発語の難しさ以外に摂食障害を併発しているケースも多々あります。
摂食障害を見極めるポイントを教えてください。また、摂食障害による危険なケースとはどういったものがあるのでしょうか?
摂食とは食物をかみとったり唇を使って口の中に取り込んで食物を咽頭(口の奥から喉の方)へ送り込んだり咀しゃくして、飲み込みやすく食べ物をまとめたりすることです。それから嚥下(食物を飲み込むこと)して食物を食道送り込みます。摂食と嚥下は一連の運動なので通常は摂食嚥下機能といいます。
食べることで注意しなければならないことは、よく噛まないで飲み込んで、食物をのどに詰まらせて窒息したり、誤嚥といって、嚥下した食物が気管の方に入ってしまい誤嚥性肺炎になることです。時にはよだれが知らないうちに気管に流れ込んだり、胃食道逆流といって一度食べたものが喉まで戻ってそれを誤嚥することもあります。胃食道逆流の兆候と思われる嘔吐や呼吸時に喘鳴(ゼロゼロやゴロゴロ)があったら食後はすぐに寝かせずに上体を起こす姿勢にしておきます。誤嚥は呼吸に関連して重篤な呼吸機能低下につながるので注意が必要です。嚥下には首の安定が関与します。姿勢が崩れやすく首がぐらぐらするようでしたら食事時の姿勢にも留意しましょう。食べるときにむせやすかったり、咳き込んだりするようになったりしたら誤嚥の危険性があると思ってください。風邪を引いていなかったり原因がはっきりしないで夜に突然高熱がでて翌朝は解熱してケロッとしているときは誤嚥による発熱のこともあるので、喘鳴の有無や呼吸状態を観察して小児科受診されることお勧めします。また、通常私たちは食物がのどに詰まったり、気管に入ると途中で咳き込んで食物を排出することができますが、詰まったものが大きかったり、筋力が弱いために強い咳が出せない場合があるので、筋力に問題があるふくやまっこは特には注意してください。体調が悪い時や運動機能が低下してきたときは嚥下機能にも注意をします。いつもの食物より柔らかいものにするのがよいでしょう。硬いものを小さくするより食材を柔らかくして食べやすい大きさにします。柔らかめのマッシュ食やペースト食にすることも検討してみます。また、水分にも留意します。さらさらの水分はのどを通るのが早いので気管に流れこみやすい傾向があります。水分にはとろみをつけてみることも工夫の一つです。子どもさんの食べる機能の状態にもよりますが、なかなか飲み込めず食べるのに時間がかかるようになったら注意します。唇を閉じる力や顎を動かすかむ力、食物を押しつぶしたり口の中で食物移動させれる力が弱くなったら口の機能が低下してきたかもしれないと注意してください。口の機能が低下することは嚥下機能低下も考えられるので日常的に子どもの食べ方をよく観察しておきましょう。
摂食障害にかんしては、身体機能以外にメンタル面でのケアはどのような方法がありますか?
偏食に関しては、通常3歳ぐらいまでは定着しないといわれています。乳児期や年少時期にみられる好き嫌いはだんだんと修正されてる可能性があるので、一度嫌がった食物でも時期をみて再度挑戦してみましょう。ある食物を嫌がったのでそれは食べさせないようにしてしまうと好き嫌いを作ってしまうことにもなりかねません。できれば家族と一緒に食事をするように食べるようにします。みんなと一緒に食べることで食欲が促進されたり、献立や食材の名称、「おいしい」「甘い」「辛い」「すっぱい」「かたい」「やわらかい」「おおきい」など食べながらことばかけをすることで共感関係やことばの学習をすることもできます。もし、子どもがペースト食であったらどんな献立をペーストにしたのか説明したり元の献立(家族の食べているも)を見せるのもよいでしょう。時には子どもも一緒にキッチン入って調理場面を見せてあげながら素材や調理の仕方など話しかけるのもよいでしょう。
 摂食嚥下に重い障害があって経管栄養法(経鼻栄養、胃ろうなど)である子どもも家族の食事の場には一緒に参加するようにします。時間が合えば注入しながら家族と一緒に食卓を囲み、家族の食事を見たり会話に参加するように配慮しましょう。

高見 葉津たかみ はつ
言語聴覚士 / 指導教室「育ちの部屋」運営

国立聴能言語障害センター付属聴能言語専門職員養成所(現:国立障害者リハビリテーションセンター学院言語聴覚学科)卒業
筑波大学大学院 修士課程 教育研究科 修了
都立北療育医療センターに言語聴覚士として40年間勤務
現在:都立北療育医療センター非常勤
   訪問看護ステーションHUGにて言語聴覚療法の訪問
   指導教室「育ちの部屋」運営
   上智大学大学院非常勤講師
   武蔵野大学大学院非常勤講師
   京都光華女子大学客員教授

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