第8回

石垣 景子先生
医師 / 東京女子医科大学医学部小児科 講師

2016年、東京女子医科大学病院で倫理委員会を通し、福山型筋ジストロフィーの臨床研究として処方が認められた、ステロイド(プレトニン)。ステロイド自体はよく耳にする薬ですが、福山型筋ジストロフィーの患者さんの体にステロイドがどのように作用するのか、また使用する上でのメリット・デメリットに至るまで、同病院小児科医、石垣景子先生に詳しく解説して頂きました。

そもそもステロイドと聞くと、スポーツ選手などが使う筋肉増強剤のイメージがあります。筋ジストロフィーに使うステロイドは、どういった種類のものになるのでしょうか?
一般的に知られている筋肉増強剤はホルモンステロイド剤(アナボリックステロイド)であり、筋ジストロフィーの投薬で使われるプレドニンなどのステロイドは、糖質コルチロイドと呼ばれる全く別の薬になります。プレドニンは喘息や膠原病、リウマチなどの治療で免疫抑制の治療薬としてもよく知られています。リウマチなどの患者さんが定期的にステロイドを摂取すると、筋萎縮を起こすステロイドミオパチーが副作用として知られており、むしろ筋ジストロフィーではない人がプレドニンを摂取すると筋萎縮の方向に働きます。そのような作用も持つステロイドが、何故、筋ジストロフィーの患者さんに有効なのかは、実ははっきり分かっていない部分もありますが、その中でも、いくつか説はあります。
筋ジストロフィーの患者さんの筋細胞の壊れ方は、体全体まんべんなく壊れるのではなく、実は一つの細胞が壊れると炎症を引き起こす因子が出て、周辺の細胞が巻き込まれるように壊れていくという特徴があります。ステロイドはその因子を押さえ込むという作用があり、細胞の破壊が最小限で食い止める為に有効です。
また、もう一点、ステロイドは筋の代謝転写因子を活性化する作用があり、この代謝転写因子は筋の機能を向上させることが知られています。筋ジストロフィーにおいて、その因子を活性化させると、筋の耐久性を増し、筋肉の破壊は少なくなります。ステロイドにはその転写因子を増強する役割があることも最近分かってきました。
以上の効果により、ステロイドは筋細胞の破壊自体を止めることはできないが、残る筋細胞をサポートしているようなイメージを思い描いて頂くと理解し易いかもしれません。
福山型筋ジストロフィーへのステロイド投与に関しての研究はいつから始まったのでしょうか?
福山型筋ジストロフィーへのステロイド投与に関しての研究は、実は今まで全く進んでいませんでした。実際、デュシェンヌ型筋ジストロフィーですら、つい10年前までは、日本でも限られた病院でしか投与されていませんでした。それがヨーロッパでデュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんのガイドラインが作成され、その中で、唯一エビデンスのある薬としてステロイドが推奨されました。その結果を受けて、2014年日本でもデュシェンヌ型筋ジストロフィーの診療ガイドラインが整えられ、日本でもステロイドの使用を検討することが当たり前になりました。まだ、そこから3年です。福山型筋ジストロフィーにおいては、昨年、女子医大でようやく倫理委員会を通し、臨床研究として処方が認められるようになりました。
ただ、ガイドラインでステロイドを推奨しているデュシェンヌ型筋ジストロフィーとは異なり、福山型筋ジストロフィーに対してステロイドを処方する事自体が、新しいトライアルになります。このため、後に控えるアンチセンス核酸の治験との兼ね合いに対しては、私達も非常に慎重になっています。故に患者さんの筋肉の低下のタイミングや、たとえ治験に入れたとしてもプラセボ(偽薬)に当たる可能性など、ステロイドの使用に関して、多方面から、親、医師共々考慮する必要性があります。ステロイド使用と新薬治験との絡みに対して悩む親御さん達には、プロトコール(治験の手順)次第にはなりますが、治験の開始前にステロイドの使用を中止していく事で、新薬治験参加への可能性がある事もご説明しています。
ステロイドを利用する上でのメリット・デメリットを教えてください。
メリットとしては、落ちてきた筋力が回復する、体幹がしっかりした、体力が付き傍目にも分かるぐらい元気になった、といった事例がありますが、ステロイドが効く、効かないという事に関しては大変個人差があります。
デメリットに関しては、体重が増える、免疫機能を下げ肺炎などの炎症が長引きやすい、骨が脆くなる、胃炎や胃潰瘍など消化器官へのダメージがあげられますが、こちらも個人差がかなりあります。また、不眠になったり、精神的にイライラする事もあります。長期にステロイドを投与した場合、体の中でステロイドを分泌する副腎という部分が本来の働きをさぼるようになります。この状態で、ステロイドを急激にやめてしまうと、ステロイドが体の中で足りなくなってしまうことがあります。
ステロイドは簡単に処方していただけるのでしょうか?
プレドニン自体は、喘息や膠原病などで良く使いますので、どこの病院でも出せますし、どの薬局でも扱っています。しかし、「福山型筋ジストロフィーに対して処方する場合」は、倫理委員会の審査を通した病院でしか、厳密には処方ができません。
ステロイドに処方の年齢的な基準はありません。筋力が落ちてきたところが、ステロイド処方を検討するスタート地点かと考えます。

石垣 景子いしがき けいこ
医師 / 東京女子医科大学医学部小児科 講師

<略歴>
1998年3月 東京女子医科大学医学部卒業
同年  4月 東京女子医科大学医学部大学院博士課程入学、同大学小児科入局
2000年~2001年 仏Universite Paris VI, INSERM, Institut de Myologieへ留学(Research fellow).先天性筋無力症の遺伝子解析を研究.
2002年3月 東京女子医科大学医学部大学院博士課程修了、学位取得 
同年  4月 東京女子医科大学医学部小児科 助手(助教)
2010年 英University College London, Dubowitz Neuromuscular Center
仏Universite Paris VI, INSERM, Institut de Myologieへ留学
2011年2月 東京女子医科大学医学部小児科 講師
        現在に至る

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