第6回

齋藤 加代子先生
医師 / 東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・教授

長年、ふくやまっこの遺伝子解析を研究し、患者や家族の遺伝子診断も行っている齋藤先生に、「遺伝子」という観点から福山型筋ジストロフィーの病気について語っていただきました。

福山型筋ジストロフィーを発症する原因遺伝子についてご説明ください。
起こるべくして起こる進化の歴史がどの生物にもあります。親から精子と卵子を受け継ぐ時にDNAの配列が少しずつ組み替えられます。その作業中、約300個に1個ぐらいの確率で読み間違えてしまいます。その多々ある、読み間違えの部分が病気に関わる遺伝子だと、病気の発症原因になる事があります。がん、高血圧、アレルギーなども同様で、これは誰にでもあることです。福山型はたまたま命や運動に関わる部分に変化を起こしてしまったのです。
弥生時代に起こった1人の変化の方が持つ劣性遺伝子や、その後起こった部分的な変化にある点変異の方が持つ劣性遺伝子が組み合わさる事により、ホモ型、ヘテロ型というタイプの福山型筋ジストロフィーを発症してしまうのです。日本人の88人中1人の割合でこの弥生時代に起こった変化を起こした遺伝子をもっています。
誰にでも起こりうる事ですが、劣性遺伝子は両親方のDNAに病気の原因遺伝子が揃わない限り発症しないので、確率としては大変低いものになります。
齋藤先生は福山型筋ジストロフィーとはどのようなきっかけで関わる事になったのでしょうか?
歴史を紐解くと、1960年以前は福山型筋ジストロフィーは脳性麻痺と診断されていました。1960年代に恩師の福山幸夫先生が患者さんのCK(クレアチンキナーゼ)の値が高い事を見つけて、報告し、後に福山型筋ジストロフィーが認められと名付けられました。90年代に戸田達史先生が9番の染色体に変化があるかもしれないという事を突き止め、当時、私はデュシェャンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子診断を行っていましたが、戸田先生の依頼で福山型筋ジストロフィーの遺伝子診断にも取りかかることになりました。遺伝子の診断技術は90年代から急速に発展し、2000年以降は現代と同じ診断方法が確立していきました。
2004年からは女子医大遺伝子医療センターで、遺伝子の診断と遺伝カウンセリングを続けています。
今に至っては次世代型シーケンサーという新しい方法で、なかなか見つからない遺伝子変化もわかるようになり、診断が明確につく時代になりました。
また、遺伝子変化のタイプに関して、今までの臨床経験の蓄積により、その患者さん毎の特徴や気を付けるべきウィークポイントなどもアドバイスできるようになりました。ただ同様に、遺伝子の変化と症状の関係にはわからない事もまだまだ沢山あるのが現状です。
遺伝子の変化と病気の発生関係に関して教えてください。
遺伝子の設計図=タンパク質の設計図になります。そのタンパク質が糖や脂肪を作るのに関わっていきます。タンパク質とはもっとも重要な働きをしている訳です。
フクチンの影響でそのタンパク質の生産に変化を起こしてしまっている為、福山型筋ジストロフィーを発症してしまいます。
将来的にはフクチンを補う事で、タンパク質が正常に作られる事が期待されています。
治療を待っている患者さん達にメッセージをお願いします。
今研究されている治療に関しては、歩けるようにしましょう、といった治療から、現状より悪くならないようにしましょうといった現状維持の治療まで全てが重要になってきます。
変化してすぐの細胞はすぐに治療に反応して回復する見込みがありますので、なるべく早い治療が望まれます。一方で、年齢の高い患者さんたちにとっても、進行のメカニズムが抑えられるので、私は治療自体は全ての年齢の患者さんにとって、それぞれにメリットのあることだと思っています。

齋藤 加代子さいとう かよこ
医師 / 東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・教授

現職: 東京女子医科大学副学長
東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・教授
同 大学院先端生命医科学系専攻遺伝子医学分野 教授

昭和51年  東京女子医科大学医学部 卒業
昭和55年  東京女子医科大学大学院臨床医学系小児科学 修了
昭和55年 東京女子医科大学小児科学教室 助手
昭和57年 アメリカ合衆国テネシー大学留学
昭和58年 帰国、東京女子医科大学小児科 助手、講師、助教授、教授を経て
平成16年 東京女子医科大学附属遺伝子医療センター開設 所長・教授

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