第10回
認定NPO法人フローレンス
福山型筋ジストロフィーのお子さんに限らず、病気や障害が発覚して、保育園や幼稚園に入園が叶わない、又は入園できたとしても過ごし方で様々なハードルを感じるご家族は多いのが現状です。
そこで、日本でも障害児保育にいち早く取り組んでこられたフローレンスの方に、「障害児訪問保育アニー」について取材をさせて頂きました。事務局の上羅さん、実際、福山型筋ジストロフィーのお子さん(文中:路路ちゃん)の保育経験を持つ平山先生のお二人にお話を伺いました。(以下、敬称略)
- アニーの障害児保育の特徴及び、立ち上げの経緯を教えてください。
- (上羅)アニーは訪問型の保育と看護を組み合わせた事業になります。
自宅での保育にはなりますが、おうちにいるだけではなく、公園や児童館に出掛けたり、また近隣の園との交流保育での子供同士の交流も行っています。体調面では看護師が巡回してチェックをしていきます。
お子さんが慣れた環境の中で、マンツーマンの保育を通して、それぞれのお子さんに合わせた保育を提供できるのが特徴です。
日本の保育状況として、医療的ケアがあるというだけで、通常の保育園入園は厳しいのが現実です。
フローレンスでは10年以上病児保育や小規模保育を運営してきました。
ある日、代表の駒崎宛に、医療的ケアのある障害をもった子供の親御さんから、連絡がありました。保育園の入園が困難な事から仕事を辞めなくてはならないとの事でした。行政の状況を調べてみたところ、やはり厳しい現状がありました。
そこで我々にできる事はないかと考え、障害児保育園ヘレンをスタートしました。(2014年杉並に設立)
ただ、ヘレンのような施設型は作るのに時間がかかります。
親御さんのニーズに合わせ、もう少し保育できる人数を増やしたいと思い、フローレンスが展開してきた、訪問型の保育のノウハウを活かす事のできる「障害児訪問保育アニー」を2015年に立ち上げしました。
アニーでは主に医療的ケア、障害のあるお子さん、集団保育が難しいお子さんを対象に保育しています。
現在対応できる医療的ケアは、経管栄養、吸引吸入、胃瘻、酸素の取り扱いになります。
現在はヘレンを都内に6園展開、アニーを16の区でサービス提供しています。
- アニーの保育士さんはどのようなキャリアの方が多いのでしょうか。
また、平山先生自身が障害児保育に携わるきっかけ等はありましたでしょうか。
- (上羅)アニーには様々なバックグラウンドをもつ保育者が多いのが特徴です。
保育園・幼稚園での保育の経験を通して、より障害児との関わりを深めたい方。
介護のバックグラウンドを持つ医療的ケアに携わってきた方。
病棟保育や特別支援学校での保育経験者。
みな、障害をもったお子さんの成長を親御さんと見届けたいという気持ちは共通です。
(平山)私は以前、自分の娘が卒園した幼稚園でフリーの立場で働いており、個別の対応が必要なお子さんを担当していました。
ある日、1対1で対応しないと難しい障害を抱えたお子さんが入園してきました。
実際、数人のお子さんをみなくてはならない為、マンツーマンでの対応は難しいのが現実でした。
この事がきっかけで、1対1の関わりの中で、しっかりと対応したいという気持ちが強くなっていたところ、「障害児訪問保育アニー」の存在を知り転職しました。
- おおよその1日、1週間の保育カリキュラムを教えてください。
- (上羅)基本、9時~18時の中での8時間保育で担任制です。
基本的なリズムを整えながら、疾患や発達状況により1日の過ごし方は、1人1人に合わせた対応となります。
(平山)路路ちゃんの場合は、1度退園せざるを得なくなった保育園に、いずれ戻る事が目標でした。
その為、ほぼ保育園と同じスケジュールで1日を過ごしました。
親御さんとの引き継ぎ→朝の挨拶→散歩→お昼→お昼寝→おやつ→ふれあい遊び(ストレッチ含む)からの立位装具→親御さんに引き継ぎ、が基本です。
季節を感じることを大切にし、たくさんの体験が出来る保育を心がけました。区立保育園との交流保育も行っていた為、保育園での歌や遊びを、自宅保育でも繋げて行っていました。
医療的な側面では、路路ちゃんの病院の医師、リハビリの医師からも担任及び看護師が直接話を聞き、食事の取り方や、姿勢、ストレッチ時に配慮すべき事等を確認しました。
リハビリは遊びの中に取り入れ、路路ちゃんが楽しく行えるように工夫しました。
情報を共有する事で、アニーの訪問看護師、理学療法士さん、言語療法士さん等、みんなで横に繋がりながら保育していく事ができました。
- 保育にあたる際、医療的ケアの部分でどのような点で気をつけて保育をしているのでしょうか。
- (平山)路路ちゃんの場合は拘縮を防ぐ為に立位装具を毎日行いましたが、保育とリハビリの時間はやはり意味合いが違います。保育で一番重要な事は子供自身が楽しい事、また安全である事だと思います。その為、全て遊びを通して実践しました。
褒めながら、お口のマッサージをする。
音楽にのりながら、一緒に踊る。
好きなおもちゃまで転がりながら移動する。
様々な遊びをリハビリに繋げていきました。
他のお子さんの場合も医師や理学療法士、言語療法士の方と連動して、保育という立場で、自分たちに何が出来るかを一番に考えながら、ケアする事を心掛けています。
- 障害児の保育を通して、気を付けた事、または感じた事など有りましたらお願いします。
- (平山)路路ちゃんは、やりたいという気持ちがたくさんあったので、楽しく保育することができました。
彼はお友達が大好きな子で、公園や交流先の園での子供達との関わりで大きな成長を遂げてくれました。
障害や病気がある事で、大人はどんな場面でも不安を抱え、必要以上に慎重になります。
ただ危険を避ける方法だけしっかり考慮すれば、子供の可能性を極力伸ばしてあげる事も重要ではないでしょうか。
可能性をはばまない、諦めてはいけない。子供に安全な環境下で、どんどん挑戦させる事はとても大事です。
(上羅)障害の有無に関係なく、みんなが平等に保育を受けられる事が、日本の保育において現状求められる事だと思います。
専門の保育園だけではなく、通常の保育園での受け入れにより、子供同士が刺激され成長していく事も重要です。
ただ簡単な事ではないので、フローレンスではモデルケースををつくる事が必要と考え、実際に通常の保育園との交流も開始しています。
その動きが日本全国に広がり、政府がしっかりとした制度をかたち作ってくれる事に期待しています。
(平山)子供達同士の垣根を、いつかなくしたいと切に願います。障害のある子、健常の子が一緒に過ごす事で、世の中に色々な子が居ることが当たり前に、そして自然な事になっていくのではないでしょうか。
場所で人を囲うのではなく、人材が適所に赴くような制度つくりにより、時間はかかるかもしれませんが、いつか現実となる事を望みます。
(上羅)まずは、障害児が置かれている現状を世の中に知って頂く、見ていただく事が大事だと思います。
フローレンスとしてはこれからも行政に、様々なアプローチを続けたいと思っています。
この動きが日本の中に広がると嬉しいですね。
保育にご興味あるかたは以下リンクからご確認ください。
「障害児訪問保育アニー」「障害児保育園ヘレン」
- 認定NPO法人フローレンス
【事業内容】
・訪問型病児保育事業(フローレンスの病児保育)
・小規模保育事業(おうち保育園)
・認可保育事業(みんなのみらいをつくる保育園)
・障害児保育事業(障害児保育園ヘレン)
・障害児保育事業(障害児訪問保育アニー)
・コミュニティ創出事業(グロースリンクかちどき)
・働き方革命事業
・みんなで社会変革事業
・ひとり親家庭支援(寄付会員制度)事業
・赤ちゃん縁組事業
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